ストックフォト・素材サイト利用時に知っておくべき著作権とライセンスの種類
Webサイトや印刷物、広告制作において、ストックフォトやイラスト素材は非常に便利なリソースです。手軽に高品質なビジュアル素材を入手できる一方で、著作権やライセンスに関する理解が不十分な場合、意図せず著作権侵害のリスクを負う可能性があります。特に企業や組織で素材を利用する場合、個人の問題にとどまらず、信用失墜や損害賠償といった大きなリスクにつながりかねません。
この記事では、Webサイト企画・制作に携わるディレクターの皆様が、ストックフォトや素材サイトを安心して利用するために知っておくべき著作権の基本と、主要なライセンスの種類、そして適切な利用のための注意点について解説します。
著作権の基本と素材サイトの関係
まず、素材サイトで提供される写真やイラストなどの素材にも、作成者であるクリエイターに著作権が存在します。著作権は、作品が創作された時点で自動的に発生する権利であり、これを無断で複製、配布、公衆送信(Webサイトへの掲載など)することは原則として著作権侵害となります。
素材サイトは、クリエイターから著作物の利用許諾(ライセンス)を得て、サイトの利用者に対してさらに利用許諾を提供することで成り立っています。私たちが素材サイトから素材をダウンロードし利用する行為は、サイト運営者を通じてクリエイターから正式な許諾を得るプロセスと言えます。したがって、素材サイトの利用規約や個別のライセンス条件を遵守することが、著作権侵害を回避するための最も重要なステップとなります。
ストックフォト・素材サイトにおける主なライセンスの種類
素材サイトで一般的に見られるライセンスにはいくつかの種類があります。それぞれの特徴と利用範囲を理解することが不可欠です。
1. ロイヤリティフリー(RF)ライセンス
ロイヤリティフリーとは、「一度ライセンス料を支払えば、期間や利用回数、媒体の制限なく(または、比較的緩やかな制限内で)繰り返し利用できる」ライセンス形式です。利用の都度料金が発生するわけではないため、一度購入すれば様々なプロジェクトに使い回しやすいというメリットがあります。
- 特徴:
- 一度購入すれば追加料金なく利用可能(購入プランによる制限はあり)
- 利用期間、利用回数に制限がない場合が多い
- 幅広い用途に利用できることが多い
- 注意点:
- 「フリー」という言葉から誤解されがちですが、著作権が放棄されているわけではありません。購入または契約が必要です。
- 利用規約で禁止されている用途(例:アダルト関連、誹謗中傷、登録商標としての利用、素材自体を商品として再配布するなど)には利用できません。
- モデルや特定の建物・商標などが写っている素材には、別途利用許諾(プロパティリリース、モデルリリースなど)が必要な場合があります。これらは通常、サイト側で取得済みですが、利用者がその利用範囲を確認する必要があります。
2. ライツマネージド(RM)ライセンス
ライツマネージドとは、「利用目的、期間、地域、媒体、サイズ、利用回数など、利用条件を細かく設定して、その都度ライセンス料を支払う」ライセンス形式です。特定の用途やプロジェクトに限定して利用したい場合や、競合他社が同じ素材を使用することを避けたい場合(排他利用が可能な場合もある)に適しています。
- 特徴:
- 利用条件を細かく設定できる
- 利用条件に応じて価格が変動する
- 競合他社との素材重複を避けやすいオプションがある場合も
- 注意点:
- 利用条件の範囲外での利用は、追加のライセンス取得や料金支払いが必要になります。
- 利用履歴を正確に管理し、契約内容を遵守しているか常に確認する体制が必要です。
- RFと比較して高価になる傾向があります。
3. 拡張ライセンス(Extended License)
標準のRFライセンスやRMライセンスでは許可されていない特定の用途(例:Tシャツやマグカップなどの商品化、配布数が多い場合、Webテンプレートとしての利用など)に素材を利用したい場合に、追加料金を支払って取得するライセンスです。
- 特徴:
- 標準ライセンスでは禁止されている、より広範な商業利用が可能になる
- 注意点:
- 拡張ライセンスの種類はサイトによって異なり、カバーされる範囲も様々です。具体的な利用目的と照らし合わせて、必要な拡張ライセンスを確認・購入する必要があります。
4. クリエイティブ・コモンズ(CC)ライセンス
ストックフォトサイトとは少し性質が異なりますが、フリー素材サイトなどで見られるライセンス形式です。著作権者が、一定の条件のもとで著作物の自由な利用を許可する意思表示のための国際的な公開ライセンスです。「表示(BY)」「非営利(NC)」「改変禁止(ND)」「継承(SA)」などの条件を組み合わせて利用範囲が規定されます。
- 特徴:
- 原則無料で利用できる素材が多い
- 利用条件がアイコンで示される
- 注意点:
- 多くの場合、クレジット表記(BY)が必須です。
- NC(非営利)条件が付いている素材は、商用目的のWebサイトや広告には利用できません。
- ND(改変禁止)条件が付いている素材は、トリミング以外の編集・加工が認められない場合があります。
- SA(継承)条件が付いている素材を改変して利用した場合、その二次的著作物にも元の作品と同じCCライセンスを適用する必要があります。
- 条件の解釈が難しい場合や、権利帰属が不明確な素材も存在するため、商用利用にはリスクが伴う場合があります。可能な限り、ライセンスが明確で信頼できる有料サイトや、CC0(著作権放棄)ライセンスの素材を利用するのが安全です。
企業・組織として取るべきリスク管理と予防策
Webディレクターとして、個人だけでなく組織として著作権侵害リスクを回避するためには、以下の点を徹底することが重要です。
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利用規約・ライセンス条件の徹底確認:
- 利用するストックフォト・素材サイトの利用規約および各素材に付随するライセンス条件を必ず読み込み、利用目的との適合性を確認します。特に商用利用、加工の可否、クレジット表記の要否、利用期間や範囲に関する制限事項は重要です。
- 不明な点があれば、サイト運営者または弁護士等の専門家に相談します。
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利用履歴とライセンス情報の管理:
- 誰が、いつ、どのサイトから、どの素材を、どのようなライセンス(RF、RM、拡張ライセンスなど)で取得し、どのプロジェクト・媒体で利用したかを記録・管理する体制を構築します。RMライセンスを利用した場合は、特に利用条件(期間、媒体、地域など)を明確に記録します。
- これにより、後から著作権に関する問い合わせがあった際に、正規の利用であることを証明できます。
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社内ガイドラインの策定と周知:
- ストックフォト・素材サイトの利用に関する社内ガイドラインを策定します。
- ガイドラインには、利用して良いサイト/ダメなサイト、ライセンス確認の手順、利用履歴の報告/管理方法、禁止されている利用方法(規約違反となる行為、公序良俗に反する利用など)などを明記します。
- 関連部署(Web制作部門、マーケティング部門、広報部門など)の担当者全員にガイドラインを周知徹底し、遵守させます。
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外部委託先との契約:
- Webサイト制作などを外部の制作会社やフリーランスに委託する場合、使用される素材の著作権処理について契約で明確に定めます。
- 「使用する全ての素材は、著作権者の許諾を得た正規のものとする」「第三者の著作権を侵害しないことを保証する」といった条項を含め、万が一トラブルが発生した場合の責任範囲を明確にしておくことが重要です。
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不明確な素材の利用回避:
- 個人ブログなどで見つけた出典が不明な画像や、ライセンス条件が曖昧なフリー素材サイトの利用は極力避けます。信頼できる有料のストックフォトサイトや、利用条件が明確な正規のフリー素材サイトを利用するようにします。
まとめ
ストックフォトや素材サイトは、クリエイティブ業務の強力な味方ですが、著作権とライセンス体系の理解なしに利用することは大きなリスクを伴います。Webディレクターとして、個々の素材のライセンス条件を確認する習慣をつけ、さらに組織として適切な管理体制を構築し、関わるすべての人々が著作権を尊重した素材利用を行うことが重要です。
本記事が、皆様の素材利用における著作権リスク管理の一助となれば幸いです。